oversea work and overweight

今、日本全国というより、全世界に単身赴任のサラリーマンがあふれている。

五、六年前、三井信託銀行におられた山本博一氏が「単身赴任ウロ覚え」という、小冊子がだされたが、これはなかなか実感がこめられていて、単身赴任の好ガイドブックであった。

山本氏によれば、単身赴任は「自己管理の精神を鍛えるいい機会」と考えるべきで、その自己管理とは、要するに精神的飢餓感との戦いなのである。

単身赴任はたえず自分が貧しい食生活を送っており、従って栄養不足におちいる。という不安感に悩まされている。その不安感に駆り立てられるようにして昼からそばの代わりにカツ丼を食べてしまう。

パーティーに出席しても、どうしても食べ過ぎてしまう。社宅のマンションのバターくらいしか入っていない、空っぽな冷蔵庫の中がうかんできて、過食に駆り立てられるのである。

夜道を帰っても、「このままだと、腹が減って寝つかれないのではないか」という恐怖感に襲われ、ついラーメンをかきこんだりする。

その挙げ句、単身赴任性肥満になって、高血圧や高コレステロールに苦しむ結果になってしまう。

単身赴任をしたら、むしろダイエットのチャンス到来と考えて、干物と納豆の定食といった低カロリー食しか取らないようにする。休日などは一食抜いたほうがいいみたいである。

それと、山本氏は無理をして自炊するな、という。包丁で指でも切れば実害があるし、また料理がうまくゆかないとがっくりきて、かえってストレスが溜まるものだそうだ。

ただし食器は沢山数を揃えて、持って行ったほうがいい。食器を一人分だけ持ってゆくと、いかにもみじめな感じがつきまとい、食事の度に情緒が不安定になりやすい。

ついでにワインシャツ、肌着もたっぷり持っていったほうがよろしい。洗濯に追われるなんてことが、老人臭いイメージを与えてしまう、という。この辺は妙に実感の伴うガイドラインだ。

これは私が聞いた話だが、単身赴任の場合は、できるだけ電話のコードを長くするのが精神衛生上よろしいらしい。

電話のコードを長くして風呂場やトイレ、寝室の枕元に持ち込めるようにする。中高年者は風呂場やトイレで倒れる棄権も少なくないから、常に電話機持参で動きまわる。

手元に電話機があれば、外部と繋がる手段がある、ということで、精神的な支えになるのである。

単身赴任者を見ていると、日本の男の繊細さ、気弱さがソクソクと迫ってくる。単身赴任を絶好の浮気の機会、と捉えるような猛者には、実のところあまりお目にかからない。日本の男は女房がいないと浮気もできないのかもしれない。

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