Yes or No

「はい」や「いいえ」を、体でどう表現しますか。

アルバニアで頭を悩ましたことが一つある。昼間から銃声がするとか、レストランや商店が閉まっているとかではない。「はい」「いいえ」と言う時の首の振り方についてだ。

こちらの人は「はい」と言いながら、首を横に振る。「はい」/「いいえ」は縦だ。聞いてはいたが、どうも調子が狂う。「写真を撮ってもいいですか。」と尋ねると、笑いながら首を縦に振る。カメラを構えたら、相手は突然怒りだしたりするのだ。

アルバニア語で「はい」/「いいえ」は「ヨー」と言う。英語やドイツ語の「ヤー」をつい連想する。それで首を縦に振るのだから、間違えないほうがおかしい、と強弁したくもなる。

観察を続けると、「はい」で首を横に振る人と縦に振る人の両方いることにも気づいた。これには、頭を抱えた。言葉が解らない人間にとって、身振りは相手の意思を知る重要な手がかりだ。ここアルバニアでは、首の振り方からは判断できない。

どうしてこんなに混乱が起きているのか。通訳に尋ねると、元来は「はい」が横、いいえは縦、なのだそうだ。「しかし、欧州の仲間入りをするために、身振りも変えなければいけない。今はその途中にあって混乱しているのだ」と解説してくれた。

アルバニアでの取材で感じるのは、6年前の民主化以来、急激な欧州化(市場経済化)によって、この国にさまざまなひみずが生じている。ということだ。今起きている国の混乱も、このあたりに一因がある。こう考えると通訳氏の説明には、妙な説得力があった。

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